私はITエンジニア出身として、区政のDX化を推し進めたいと考えている訳ですが、その一方でやみくもなDX化は人を幸せにしないと考えております。
DX化とは情報技術を用いることで、業務のあり方を根本的に変え、付加価値を生むこと指します。単なるIT化との違いについて、行政サービスの窓口業務を例に考えてみましょう。
「サービスの状況を電話で窓口に問い合わせして確認できる」のが「サービスの状況をメールで窓口に問い合わせして確認できる」に置き換わったのがIT化、「サービスの状況を気になる人が、窓口に問い合わせをせず、一人でWEB上から確認できる」のがDX化です。問い合わせされる側の業務が根本的に変わり、旧窓口担当の部署は、確認システムが正常に起動してるかの定期確認をするぐらいに業務量が減り、電話やメールに張り付く必要がなくなります。この話、問い合わせをする方からすればコミュニケーションの時間を削減でき、いつでも問い合わせができるというメリットがあります。そして、問い合わせをされる方からすると「現場の作業が楽になった、万歳!」とも一見思えます。ただ、もちろんデメリットもあります。
問い合わせをする側からすれば、一年間に何回も問い合わせをする訳ではありませんから、大原則として、直感的にシステム操作できるような入力装置(UI)でなければなりません。そして多くの利用者が使いこなせたとしても、高齢者を筆頭にデジタル操作の苦手な方はいらっしゃる訳で、サポートする支援員は必要でしょう。民間のスーパーマーケットではセルフレジが導入されておりますが、それと同様に、原理原則手続きはデジタル操作を自身でして頂き、デジタルが苦手な人には支援員が支援するという体制が望ましいといえます。
一方DX化による業務効率化は、問い合わせをされる側からすると、それまでやってきた自分の仕事がなくなることを意味します。窓口の人が支援員に置き換わることは考えられますが、この効率化によって、人手が余ると予測されます。窓口の人は、業務委託が担当していることもあるので、こちらは調整が可能です。少子化の影響で業務委託を担当する会社側も採用が困難になってきてはいますので、人手不足で困っているもっと別の民間企業に人材を解放する方が社会全体として良いでしょう。一方で、窓口業務に限らず、DX化で自身の業務が大幅に効率化されてしまったフルタイムの公務員の場合は、定時まで何をしようという話になります。DX化によって働く必要がなくなるのは民間企業の経営者だけであり、機械を所有していないメンバーは働く必要がなくなるわけではありません。そういった意味では、時間労働をしている現場の人にとって、DX化による業務効率化はモチベーションが上がる話ではないのです。ここで重要なのは、部署内の業務をただ効率化するのではなく、メンバーのキャリアプランも同時に考えていく必要があります。例えば、これから高齢化が激化します。そういった福祉関連の部署の増員は必須になっていくでしょうから、そちらへ異動を提示するなど、メンバーに先を示しながらのDX化を進めることが大切です。DX化に本気で取り組むとなると、組織の機械化が進むだけでなく、人事改革にも繋がるものなのです。